アートな時間

 

先日ある取材のロケハンで、世田谷の美術館を訪れました。そのときのお話を少し。

 

下見のため館内を徘徊していると“横尾忠則さんのワークショップ”なるものを発見。

 

アーティストの横尾忠則さんが、絵の制作現場を公開されているというのだ。

 

かつて広告界に時代の寵児として現れたグラフィックデザインの巨匠です。

 

横尾さんの最近の展示会を観ていたこともあり、憧れの存在のひとりであったからテンションも上がる。ちょうど午後の部がこれから始まるらしく、向こうの方から拍手と歓声が「パチパチ、ホウ」。喜び勇んで中へ入ると、…ん。彼の姿はない。

 

だが、そこに誰かいる。「?」。

 

スニーカーに、ジーパン、トレーナー姿で、少年のように笑みを浮かべている人が。

 

どこかで見た顔だ。あれっ、とその刹那。徳川埋蔵金のショベルが脳裏をスーッ。

 

もう一人の寵児。

 

なんと元コピーライターの糸井重里さんが、楽しげに喋っていらっしゃる。

 

ちょっと遊びに来てみたよ、というスタンスで彼はそこにいた。

 

どこにも名前は書かれていない。完璧なサプライズだった。

 

見学者の多くは世田谷有閑階級のマダムやムッシュだろうか、

 

皆さん心地のよいα波を発していらっしゃる。

  

clip_image002

 

糸井さんが会場を暖めてから10分ほど経っただろうか。

 

タオルを巻いたトビのおじさんのような横尾さんが登場。

 

どうやら横尾さん、制作そのものを糸井さんも交えて、みんなでいっしょに楽しもうということらしい。平日の昼下がり、日常からぽっかり抜け落ちてしまった次元への入り口が、ぱっくり開かれているようだ。

 

糸井さん 「とうとう制作現場まで公開するようになってしまいましたねぇ。そんなに人に見られたいんですかねぇ。たまってるものでもあるんですか」。

 

横尾さん 「たまってますよぉ」。「不透明なものがもやもやとそこら辺にいっぱい」。「出し切るまでやりますよ」。

 

表現に挑みつづける二人のありようを図らずも垣間見ることができてうれしくなった。

 

2009年 丑の瞳にカンパイ。

このエントリーをはてなブックマークに追加

最終更新:2024/04/08 RSSについて

月別記事一覧